
ラブ・コール
文庫本が好きだ。
本屋の一番目立つところに華やかに陳列されたハードカバーの新刊本たちは「さあさあ新しい本が出たよ、ちょっと値は張るけど買ってね」と営業スマイルをふりまいているように見える。対して文庫本は「そんなに新しくはないけれど、より多くの人に読んでほしくて……」といった風情で、少し控え目な顔をして横目でこちらを見ている気がする。
何より、僕みたいに「通勤通学の時間が貴重な読書の時間です」という種類の人間には、あの取り回しのしやすさが有り難い。満員電車でハードカバーはとてもじゃないけれど広げられない。
そんなわけで、文庫本が好きだ。
こういう僕なので、今日も文庫本をかばんに入れて会社へ行った。最近は携帯ゲーム機と文庫本を持って通勤し、気分次第でどちらを取り出すかを決めるようにしている。
吉田篤弘作品と僕の奇妙な関係
「フィンガーボウルの話のつづき」。
実は、僕はこの本の表紙をどこかで見たことがあった。それがいつで、どこで、どういうシチュエーションだったのかは覚えていないのだけど、この独特なイラストレーションは僕の脳裏に鮮明に焼き付いている。それはつまり、ただ書店に並んでいる表紙をなにかのついでに目にしたとか、そういう「普通の」邂逅ではなかったことを示している。
作者はちょっと変わった作風を持つ人で、本名の吉田篤弘名義以外にも「クラフト・エヴィング商會」名義での著作もある(もしかしたらこちらの方が有名かもしれない)。また、妻である吉田浩美との共著、更にふたりの娘である(という設定の)吉田音名義でも作品を発表している。
元々美術大学の出身でデザイナーとして働いていたという経緯もあり、どの本にも随所に凝った挿絵や写真があしらわれている。
この作家と僕との出会いは、実はかなり昔のことになる。
先月この作家の手による「クラウド・コレクター」という本をたまたま書店で(といってもヴィレッジ・ヴァンガードだけど)見かけ、その場に一緒にいた友人の勧めもあって購入したのだけど、読後に気になって調べてみたところ僕はすでに彼の本を読んだことがあるようだった。
「ないもの、あります。」という絵本がそれで、僕はその本を誰かからいただいたのだった。それが何年前で誰からの贈り物だったのか、そのあたりはいまいちはっきりと思い出せないのだが、少なくとも5年以上は前だった気がする。それすらも定かではないけれど。
僕は、自分で気になって手に入れた本は集中して読み、後からまた読み返すこともままあるのだが、人から勧められたり貸してもらった本はとりあえずざっと流し読みする程度であることが多い。おかげで気になる作家との出会いが5年も遅れてしまったのだから、これは猛省しなくてはいけまい。
で、なんの話だったっけ
本題。「フィンガーボウルの話のつづき」とはどんな本だったか?
ある作家──「吉田君」という名前なので、これはおそらく作者自身だろう──が、書きたい話をうまく書くことができず困っている。その話は「世界の果ての食堂」が舞台であり、そこに訪れる人々が主人公であることは彼にはわかっているのだが、どうしてもうまく進めていくことができないでいる。彼は東奔西走し、なりゆきでジュールス・バーンという寡作な作家のことを知る。ビートルズのホワイト・アルバムだけを収集していた、奇妙な男。彼もまた、連載小説の予告だけを残して失踪してしまった「物語のしっぽ」を掴もうとする者のひとりだった。ホワイト・アルバムを中心にして展開される、いくつもの短編小説とそれらのつながり。
簡単に文庫本の裏表紙的にまとめるとこういう感じだ。
でも、この作家はやはり読んでこそだと思う。ストーリーテリングが抜群に上手いというのでもないし、読んだ後に感情を揺さぶられるというのでもない。何というか、「行間の雰囲気」がいいのだ。我ながら語彙のなさにがっかりするけど、それでもそう言うしかない。ぜひ手に取ってみていただきたい。
この一ヶ月で、クラフト・エヴィング商會名義の「クラウド・コレクター」、吉田音名義の「夜に猫が身をひそめるところ Think」、そして吉田篤弘名義の「フィンガーボウルの話のつづき」の3冊を読んだ。そろそろ他の作家の本を読んでもいい頃合いだ。
次は何を読もう?
28/08/2008 at 11:44 Permalink
よつばとを電車で広げて!(゜∀゜)
09/09/2008 at 0:27 Permalink
発売日に電車で広げて読んだし、僕のそばにふたりも読んでる人がいたよ。
笑っちゃいそうになったので読むのは途中で諦めたけど。